・このエッセイは,福井市在住の鈴木様のご厚意により掲載させていただいております。
・実話に基づいていますが,文中の登場人物はすべて仮名です。
・写真は昭和30年代のものを中心に使用しておりますが,本文との直接の関係は
 ありません。出典は特に明記されているもの以外,主として本校所蔵の写真,
 または『鳴鹿小学校百年史』より引用しています。
【第1章第2話】

「下田君・平山君、講堂で帰るの待ってるでな」
 川島君が後ろの入口を開けて出てきて二人に言うと、さっさと階段を降りていった。帰宅場所が同じ方向なので、3人は絶えず一緒に行動しているらしい。川島君はすでに無罪放免になって、講堂で彼らの来るのを遊んで待つ事になった様だ。
 僕らも気が焦ってくる。それに小便も我慢の限界に達してきた。すでに1時間以上も、廊下に立ちっぱなしで寒い時期ではないが、少し冷えてきた。

 その時また戸が開いて、今度は吉川君がカバンの紐を首に回して廊下に出てきた。
「鈴木君どうするかな、今日もきっと何か罰があるぞ!、とにかく僕は講堂にいるで、帰る時呼びにきてな」
「うん、わかった」
吉川君も廊下を去って行った。
「もう残ってるのは3人やな」


 平山君が問いかけるが、もう上の空そんな話は耳に入ってこない。僕らの顔には脂汗がにじんでいた。
「僕ちょっともれたかも知らんな」
蚊の鳴くような小さな声を発した。平山君の目はうつろになって焦点が定まらない感じだ。
「ションベやションベ!」
口火を切って僕が便所に向かって走り出した。少し遅れて下田君が続く、平山君も取り付かれた様に無言でまたを開き加減にそろりと走り出した。


 ほっとして3人は元の廊下に戻ってきた。依然として教室の入口の戸は閉じたままになっている。
「おかしいな、いつまで立ちんぼせんとあかんのかな?」
 そーっとガラス戸の隙間から教室の中を僕は除いてみた。
「あれ、変やな2人だけやぞ、野村君は帰ったんかな?」
もう姿は2人しか見えない。野村君は帰ってしまったのだろうか。
「やっぱりそうか、あの2人が残ったんでは、いつ迄たっても僕達には声はかからんな」
「K君とS君ではな  あーあ!」
「いや大丈夫もうしばらくやって、あの2人やったら、宿題にして明日までにって事になりそうやぞ」
「ほんならもう時間の問題やな!」
人一倍出来の悪い立たされ坊主の3人は、顔を見合わせてにんまりとした。

 やはり僕達が思った通りに、出来なかった部分は明日までの宿題と言う事になった。しかし、いつもとはちょっと様子が違うのに気が付いた。

【第1章第3話へつづく】